「あー、事務所のテレビも地デジ対応にしないといけなくなるね」
なんとなく漏らした一言だった。たいした意味はない。あと二年も余裕があるんだし、そんなに急ぐこともないか、と付け加えた。
「地デジとやらがずいぶん気になるようだが、貴様はそもそもデジタルとは何か解っているのか?」
「え? え、っと……あ、アナログじゃないってことでしょ!」
「では、アナログとは何だ?」
「え……で、デジタルじゃないってこと……」
盛大な溜息を吐かれた。うん、今の問答は私が悪い。でも、何となく違うってことしか解らなくて。
「たとえば貴様がそのまんじゅうとやらを数えるとしよう。どう数える?」
「は? え……一個、二個…だよね? 普通…」
「その明確な個数として数えられるもの……もっと言うなら、あるかないか。それがデジタルだ」
「でも一個半とか……」
「それは二個だ。まんじゅうという存在が、大きさは違えど二つ存在するのだから」
「えー……」
なんか、納得いかないのは私だけかな……。一個半と二個は違うのだと思うのだけど……。
「腑に落ちないか。ならばデジタルで考えなければ良いだけだ」
「へ? ……あ、アナログってこと?」
「そうだ。アナログにははっきりしない情報を入れることができる」
「一個と、一個の半分、って言えるんだね?」
「そうなるな。だが、再現性が悪い。半分というのが曖昧だからだ。ここにもう一つ、全く同じ量のまんじゅうを出せといわれても、必ず何グラムかの差が出てしまうだろう」
解ったような解らないような……。とにかく、アナログは曖昧な量を表せるんだってことで良いんだろうか。
「それが今我々がいる世界を表現しているアナログというものだ。デジタルには『ある』か『ない』かの二者択一しか許されない。……いつかの電人HALの世界だな。0と1の世界だ」
「……そっか。それってそういう意味だったんだ」
「だからこそ、どんなに計算したところで本城刹那を寸分違わず再現することなど不可能だったのだ」
ああ……そうか、そうなんだ。私達人間はアナログの世界の住人だから……0と1だけでは表現しきれない部分が確実に存在する。デジタルの世界に刹那さんを再現するなんて、最初から無理な話だったんだ。たとえHALが永遠に計算を続けられるのだとしても。
それでも再現したかった春川教授の気持ち……思い出すと今でも胸が痛む。
ふとネウロを見ると、なんだか遠い目をしていた。多分、ネウロにとっても不可能なんだろう。いつか、私がいなくなってしまったときに、私を再現するなんて。
「……ネウロ」
静かに近づいて、ネウロに抱きついた。唐突な私の行動に少し戸惑いながらも、ぎゅっと強く抱きしめ返してくれた。
「この温かさは、アナログ?」
「そうだな」
顔を上げて、唇をそっと重ねた。触れるだけの、優しいキス。すっと顔を離して。
「キスした回数はデジタル、なんだね?」
「ああ、そうだ」
「どっちも……憶えてられる、よね? 思い出せるよね?」
「……ふっ、その通りだ。まったく、貴様の進化は目覚ましいな」
お互いのぬくもりをお互いの体に刻んで記録するように、私達は何度も肌を重ね合わせるんだ。
++ fin ++
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