ネウロは、私が泣くとその涙を舌で拭ってくれる。そんなに泣き虫な方ではないと思うんだけど、そのときの表情と舌の這う感覚が印象的で、何だかずいぶんな回数を重ねてきているような気がしてしまう。
そう思うのは、今、「それ」が行われている最中だからだろうか。
「ヤコ……」
「ん……」
あらかた舐め取ると、ネウロは頬や額、瞼などに軽くキスを落とす。そうして、私が落ち着いてきた頃を見計らって、唇を重ねてくる。
いつものドSはどうした、というくらい優しい。優しすぎて、逆に真意を掴みかねてしまう。
「今のは、“悲しい”涙…か?」
「うん……悲しい、切ない……同情、かなこれは」
テーブルに置いてあるのは一冊の本。この歳になってまで童話に感情移入して泣くなんて、「人魚姫」に思わず同情してしまうなんて――絶対こいつの所為だ。
こんな、魔人なんかに恋しちゃって、さ……。人間の感情に疎いもんだから、何処まで私の気持ちが伝わってるか解らないし。何があっても余裕だし。私ばっかり好きなのかな……。
「む、どうしたヤコ?」
ネウロの言葉と目尻への口づけで、また涙が出てきてしまったことに気づいた。
「なんでもな……」
「これは、“悔しい”涙……それとも、何かに“怒って”いるのか?」
「……え? 何それ、何でそんなこと解るの?」
思わず出かかった涙と悔しさが引っ込んだ。私が説明を要求すると、ネウロは私にも解るよう、言葉を選んで説明してくれた。
ネウロが言うには、悲しい涙は量が多くて溶けているものが少ない。逆に悔しかったり怒ったりした時の涙は塩分とかカリウムとかが多く溶けているんだって。その感情によって、ストレス物質の分泌に違いがあるから、なんだそうだけど。
「アンタ、味解るの?」
「はっきり『味』という認識ではないな……だが、違いなら感じられる。この感覚を、人間は『しょっぱい』と名付けているのだろう」
「うん、そうだけど……それも、雑学の一部?」
「確かに、吸収した知識の一部ではあるが……むしろ経験則だな、これは」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべるネウロ。きっと、ネウロの前で私がたくさん泣いてるってことが言いたいんだろう。
……あれ、私って思ったより泣き虫なのかな。
「で、何が悔しいのだ? 怒っているようには見えんが」
「……ちょっと、ね。ネウロのその余裕綽々な感じが、私ばっかりいろいろ振り回されてるみたいで」
素直にそう言ったら、ネウロが心底意外そうな顔をした。ちょっと目が丸くなってて、可愛い。なんて考えてたら、ネウロはちょっと不機嫌な感じで溜め息を吐いた。バツが悪そうに私から顔を逸らして。
「貴様にはそう見えるのか。我が輩はこんなにも必死に、人間の感じる『味』を感じ取ろうとしているのだが」
「……え?」
「我が輩とて、種族の違いを気にする時もある。少しでも、同じ感覚を共有したいと思うのは、自然なことではないか?」
それで、涙を……。その言葉が嬉しくて、私はネウロに思い切り抱きついた。ネウロも、すぐに抱き返してくれた。
私の思うことをちゃんと話したら、ネウロの行動に伴う気持ちを教えてもらえた。
私達は、お互いに思ってることをちゃんと言える。そうしてお互いの言葉に一喜一憂できる。
それは当たり前のことなんだけど、人魚姫と違うって思ったら、なんだか未来が明るく見えてきた。
「……好きだよ、ネウロ」
「何だ唐突に」
「伝えたいって思ったから」
「そうか……我が輩も、貴様を愛おしいと思っているぞ」
そうして、二人で微笑み合って、唇を合わせた。
++ fin ++
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