伝わらない愛なんて、無いのと一緒じゃないか

 一応事務所に来てはみたものの、何もやることがないので、TVをつける。チャンネルを回せば、スポーツやらドラマやら経済の授業やらが映っていく。しばらくやってみたけど、特に惹かれるものもなく、適当なところで諦める。
 ネウロはトロイで作業中だし、あかねちゃんはお昼寝中。つまんない。
 どかっとソファに寝転がり、リモコンを投げ出す。少ししたら、何だか綺麗な曲が聞こえてきた。

「……あれ、この曲どっかで……なんだっけ?」

 軽快な三拍子、何語だか解らない(多分、英語じゃないと思う)歌詞が流麗で、思わず聴き入る。
「貴様は物忘れが激しいな……」
 ぽつり、ネウロが呟くのが聞こえた。そして大きな溜め息を一つ。なんだろう、がっかりされた感じがして、焦ってしまう。
「何よ、いきなり……私なんか忘れたっけ?」
「いや、いい。忘れてしまうのなら、貴様にとってそれはその程度のことなのだろう?」
 くるりと椅子を回し、窓の方を向いてしまった。
 背もたれでネウロの姿は全然見えないんだけど、どことなく淋しそうな雰囲気。

 なんか、罪悪感。立ち上がって、回り込んで、ネウロと向かい合わせになる。
「ネウロ……ねぇ、私、何を忘れたの?」
「…………」
 ぷいっと顔を逸らされてしまった。拗ねちゃったみたい。
「教えてよ、ネウロ……私どうしたらいいの?」
 しばらく不機嫌な顔で睨めっこしてたけど、そのうちネウロはパソコンをなにやら操作して、一枚の紙をプリントアウトした。
「後は自分で考えろ」
 ネウロはその紙と分厚い辞書を私に渡して、そのまま事務所を出ていってしまった。

「なんなのよ……」
 私はソファに戻って、紙と辞書を交互に見た。紙には日本語じゃない文章が書かれていて、辞書には「仏和辞典」とあった。
「フランス語? ちょ……英語だって好きじゃないのに、なんでフランス語なの!?」
 思わず口に出してしまった。
 ということは、この文章もフランス語なのだろう。私はちらりとあかねちゃんの方を見やって、思い直して首を横に振った。なんとなく、私一人の力でやらなければいけないような気がして。

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Je n'ai pas de regrets
Et je n'ai qu'une envie:
Pres de toi, la, tout pres,
Vivre toute ma vie.

Que mon coeur soit le tien,
Et ta levre la mienne:
Que ton corps soit le mien,
Et que toute ma chair soit tienne!

「Je te veux」より
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「………………あ!!」
 最後の一文で、思い出した。クリスマスの時に、ネウロからもらったオルゴール。さっきTVで流れてたやつと同じ曲……。
 そっか、そうだったんだ……。ネウロが拗ねた理由が解って、ものすごく申し訳ない気持ちになった。



 何時間かかけて、ようやく文章を訳し終わった。途中何度も涙ぐんだ。そして今、涙腺が決壊した。
 きっとこれ、あの曲の歌詞なんだ。ネウロはクリスマスの時点で、私にメッセージをくれていたんだ。伝わると信じて……。
 それなのに忘れてしまったなんて、最低だ、私。
「ネウ、ロ……ひぃっく……ねう…ごめん、ネウロ……っく…ごめん、なさ……」
 こんな女、自己嫌悪と罪悪感で潰れてしまえばいいんだ。

「……ようやく、解ったか」

 背後から声がした。勢いよく振り返れば、まだ若干不機嫌なネウロ。
「ネウロ!!」
 私は思わず抱きついた。そして、ネウロの胸で何度も謝った。
「ごめん、ネウロ……本当に…ごめ、なさ……ぅっ…ひっく……」
 何度謝っても謝り足りない。きっと、そのくらい傷つけた。
「ヤコ……」
 泣きじゃくる私を、ネウロは優しく抱きしめてくれた。
「ねうっ…ごめ……」
「もういい……泣くな」
「ねうろ……」
「……貴様をこれほどまでに泣かせるつもりはなかった」
 ぎゅっと私を抱きしめる腕に力が入った。ネウロは不機嫌なわけではなかった。私がこんなに泣くから、後悔してしまったんだ。

「ネウロ、大好き……」

 私は泣き疲れて、ネウロの腕の中で眠ってしまった。最後に言ったこの一言は、伝わったのかな――…。

++ fin ++

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↓日本語訳です。
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私は少しも悔やまない
望みはたった一つだけ
貴方のそばで すぐそばのそこにいて
ずっと生きること

どうか私の心が貴方の心に
貴方の唇が私の唇となりますように
貴方の身体が私の身体に
私の肉体の全部が
貴方の肉体となりますように!

「貴方が欲しい」より
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