異端者同士、仲良くしてよ

 息を切らせて、弥子が事務所の扉を勢いよく開けた。その両手には大きな買い物袋が二つ。もちろん中は全部食べ物。
「っ…一分前……ま、間に合った……」
「チッ……つまらん」
 一秒でも遅れようものなら、ネウロは嬉々としてお仕置きをしたのであろう。わざわざ買い物途中にメールを送ったというのに。弥子をいじめるのが趣味の魔人は、少しばかりの悔しさを隠しきれない。

「ふぅ……さて、安心したところで、おやつにしよう」

 ソファで一息ついて、テーブルの上に袋の中身をブチ撒ける。それをニヤニヤしながら眺める弥子。早速手を伸ばして、それらを次々と胃袋へ収めていく。
 ネウロはその様子を呆れながら眺め、ふと思いついたかのように話題を切り出す。
「……暴食とは、七つの大罪の一つだそうだな」
「へ?」

「『傲慢』、『嫉妬』、『憤怒』、『怠惰』、『強欲』、『暴食』、『色欲』……この七つをキリスト教で罪源としたそうだ」

「何の本読んだの……?」
 ネウロはふんぞり返って、弥子をこれでもかと見下した。知識ならジャンルを問わず吸収するネウロに、弥子は呆れ半分、感心半分といったところ。
「暴食と関連づけられる悪魔が『蝿の王』ベルゼブブだそうだ。この、蝿以下の罪人め」
「蝿以下……まだほ乳類になれないんだ……」
 ワラジムシより身近な虫なだけに、解りやすく傷ついてしまう。
「ん……でも、それならネウロの方がずっと罪が多いんじゃない?」
「む?」
「だって、魔界を飛び出して、瘴気の薄い地上に来ちゃうほどの食欲じゃん」
「確かに、そこは認めよう。我が輩の最終目的は、地上の何処かにある究極の『謎』であるからな」
「ほら」
「だが、それならば貴様と我が輩は同じだろう?」
 その言葉に、不覚にもドキッとした弥子。なんだかんだで、共通点があるのが嬉しいのは、弥子も恋する乙女だということか。
「でっ、でも! それに加えて、傲慢だし、嫉妬深いし……それに…………ごにょごにょ」
「それに、何だ?」

「………………えっちだし……」

 真っ赤な顔を逸らして、ぽそっと呟く。その様子がとても可愛らしくて。
「……ほう」
 ネウロは、知らず口角をあげて、弥子へ近づく。ぐいっと弥子の顔を自分へ向かせ、至近距離で問いかける。

「貴様もその行為を好んでいるように見えるのだが……はて、我が輩の勘違いか?」
「!!」
「必死に我が輩にしがみつき、泣いて我が輩を求めるその姿は、我が輩の幻覚か?」
「も、求めてなん……」
「あれだけ、さも愛おしそうに我が輩の名を口にして?」
「…………」

 弥子は俯いて黙ってしまった。正論をぶつけられて、返す言葉がない。しかも恥ずかしいことこの上ない。
 今にも泣き出しそうな顔の弥子。それを、ネウロはふわりと抱きしめた。
「そのような顔をするな」
「ぅ……」
「我が輩、貴様と求め合うその行為で、生を実感できるのだ。貴様は、違うか?」
「………………ち、違…わない……」
 愛おしい男が、自分を求め、また自分に求められることによって、活力を得ている。そこまで言われたら、認めざるを得ない。

「素直でよろしい」
「ん……」

 ご褒美に、蕩けるような極上の口づけを。恥ずかしさなど忘れるくらいの甘い行為を。

++ fin ++

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魔人と人間だけど、共通点はたくさんありますよね。
弥子をいじめるチャンスを逃さない魔人様でした。



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