ああ秋葉がどす黒いオーラを放っていらっしゃる。
「落ち着け秋葉、これは懐かしいCMネタなんだ」
「懐かしいと言われても私は知りません」
「……うーむ」
懐かしいネタは知っている人には面白いが知らない人にとっては何コレな諸刃の剣である。
「秋葉さまはまずテレビを見ていらっしゃらないからハードル高すぎですよね」
「上司に恵まれなかったらオー人事」
「……だから何の話ですか」
「ではここでCMです」
「たまにはこう古いCMを引っ張り出してくるのもいいんじゃないかなと」
きっかけは琥珀さんのそんな言葉だった。
「しょっちゅうやってないそれ?」
「目の錯覚です」
「それも古いなあ……」
もう何年前の話だろうか。
「志保15枚目がもう10年前になろうとしてます」
「そんなに……あれ?」
はて俺は今何歳なんだろうか。
「ここはサザエさん時空なんで気になさらず」
「身も蓋もない事言わないでくださいよ」
っていうか心を読まないでください。
「ダッダーン!」
「誤魔化さないでくださいよ」
しかしこの話題を続けるのも危険なので乗ってみることにしよう。
「ダッダーン滅茶苦茶インパクトあったよなあ」
ちなみにそれが何のCMだったかはまるで思い出せない。
「職業選択の自由〜アハハン」
「また恐ろしく古いね」
あれから何年経ったかわからないがちっとも職業選択の自由はない気がする。
「CMは印象に残るかどうかが勝負ですからね。覚えてる人は多いんじゃないでしょうか」
「確かにね」
印象に残らなきゃCMとしての効果がないわけだし。
「リンスのいらないメリットー」
「うんうん」
それの派生も色々あったよな。
「私にはわかりません」
秋葉は不満そうだった。
「わっかるかな〜? わっかんねえだろうなあ〜」
「ですから私には……」
「ああいやそういうネタなの」
これこそ本当にわからないだろうな。
「CMで使われてましたがもともとは芸人のネタですよね」
「そういうのは使われやすいよね」
「ゲッツ!」
「まさかマツキヨのCMに出たことでああも有名になるとは……」
一時期のブームはそりゃもう凄かった。
「今でも好きですけどねーわたし」
「うん」
あの空気はなんともいえない。
「CM用のキャラクターとかもいたりしますね」
「UFO戦士ヤキソバンとか?」
「いいとこ突いてきますねー。アレ何でいなくなっちゃったんでしょう」
「う、うーん」
大人の事情はよくわからない。
「せがた三四郎は大好きでしたよー」
「ありゃ反則だよ」
中の人からして本気すぎる。
湯川専務のCMもだけど。
「まあセガっていったらマークIIですよね」
「さすがにそこまではわからないなあ……」
琥珀さんはコアすぎると思う。
「わたしはこれでタバコをやめました」
それを聞いて即座に小指を立てる俺。
「わたしはこれで会社を辞めました」
「志貴さんはそうならないよう気をつけて下さいねー」
「まず家から追い出されるのが先だと思いますが」
「は……ははは」
苦笑いするしかなかった。
「他に印象的なのというと……」
怪しげな仕草をする琥珀さん。
「ねるねるねるねは……イッヒッヒッヒ」
「最後の効果音の表現で揉めるんだよねそれ」
「てーれってれー」
「ぱーぱっぱぱーじゃない?」
「まあだいたいそんな感じですよね」
今でも売ってるんだろうか、アレ。
「食べ物……特にお菓子のCMは印象的なのが多いですね」
「そうかもなぁ。ポリンキーとか」
「ポリンキー?」
秋葉が尋ねてくる。
「そういうお菓子があるんだけどさ」
「ポリンキー、ポリンキー、三角形の秘密はね」
さっそくとばかりに琥珀さんが歌いだす。
「ポリンキー、ポリンキー、三角形の秘密はね」
繰り返し。
「なんなんです?」
「教えてあげないよ、ジャン」
ハモった。
「……結局どういうことなんですか」
「CMはそれで終わりなんだよ」
「気になりますよ」
「だからそれが狙いなんですねー。気になって買っちゃうっていう」
「……あ」
はっとした顔をする秋葉。
「まあ買っても結局よくわからないんですが」
「秘密を知ったら消されるんだなきっと」
そんな想像をして楽しむのだ。
「まったくもう……」
「ドンタコスったらドンタコス」
「?」
「ドンタコスったらドンタコス」
壁のほうへ向かっていく琥珀さん。
「ドンタコスったらドンタコス」
「な、何よ?」
「ドンタコスったらドンタコス」
くるっと振り返ってにっこり。
「とまあそれだけのCMなんですが」
「アレもインパクト強いよなあ」
「あとは……いつまで経っても新発売なケンちゃんラーメンもありましたね。カトちゃんはどこへ行ったんでしょう」
「さあ……」
その時期は志村けんが一人で番組持ってたからじゃないだろうか。
「だいじょうぶだぁのルーレットがスローになる時の声が今でも思い出せます」
「古いなぁ……」
今じゃもうああいう番組は見れないような気がする。
「……」
秋葉はもうさっぱりついて来れないせいか窓の外を眺めていた。
「う、うーん」
ちょっとかわいそうな気がする。
「ああそうだ琥珀さん、昔のビデオとかないの?」
「ビデオですか?」
「うん、そういうのに古いCMとか結構入ってるじゃない」
CMを入れないで録画する人もいるけど、CMありで入れてあると当時の事がよくわかって面白かったりするのだ。
ああこんなCMやってたなーと。
「無い事もないですねー。探してみましょうか」
「うん」
それなら秋葉も楽しめると思う。
「カステラ一番電話は二番ー」
「このCMもめっきり見ないね……っていうか古っ!」
なんか画面が白黒なんですけど。
「資料としてちょっと集めたりしてみました」
一体何に使うんだそんなもん。
「兄さん、この生き物はなんですか?」
「ああエリマキトカゲ……」
昔のCMだと必ずといっていいほど話題になる生物だ。
「で、何のコマーシャルなんですかこれ?」
「……車だった気がするよ」
見てもさっぱり思い出せないのが凄い。
「えー次のCMは……」
そこに映し出されたものは。
「ダッダーン! ボヨヨンボヨヨン!」
めきょっ!
「ああっ! わたしのテレビがーっ!」
「落ち着け秋葉! テレビを壊しても意味ないぞ!」
「志貴さんこそ落ち着いてくださああ止めて秋葉さま髪赤くするの止めてー!」
俺は思った。
テレビならここがオチで、CMに入るところなんだろうなあと。
完